【試し読み】中村佳太さん『コーヒーは男のもの?』

2026年6月12日配本予定の中村佳太さん著『コーヒーは男のもの?』の第二章コーヒーとジェンダーの1節「「コーヒーと男性性」を巡る鼎談」の冒頭部を公開します。


 コーヒー業界に入って一〇年ほど、僕はコーヒーについて知るほどに世間的にはそこに「男」のイメージが付きまとっていることに気がつきました。たとえば「喫茶店のマスター」を思い浮かべてみてください。カウンターの向こうでコーヒーを淹れるマスターの姿を想像するとき、多くの人は中年あるいは初老の男性を思い浮かべるのではないでしょうか。他にも缶コーヒーのCMは分かりやすい例です。試しに「缶コーヒー CM 人」で画像検索してみると、そこには多くの「働く男性」の表象が並びます。スーツ姿のオフィスワーカー風の男性が目立ちますが、現場作業員風の男性のものもあります。女性の登場頻度は少ないため、あえて「缶コーヒー CM 女性」で画像検索してみると、過去のCMに登場する女性たちはいわゆる「癒し」の表情で観者を見つめていることが多いです[1]。おそらくその視線の先に想定されているのは「労働に疲れた男性」でしょう。ただ、最近では女性が登場するCMでもオフィスが舞台のものが出てきているので、変化の表れが見てとれます[2]。付け加えるなら、女性がコーヒーの広告に登場するとき、そのコーヒーは「ミルク入り」である場合が多いことに気づきます[3]。ミルクというコーヒーを「優しくする」成分が加わったときに女性がしばしば登用されるのは、コーヒーとジェンダーの関係を見るときに興味深い現象です。こうしたコーヒーの持つ「男性(性)」のイメージに加えて、もうひとつ「コーヒーと男性性」について考える上で重要なポイントだと思っていることがあります。それはコーヒー業界の男性優位における男性性の影響です。コーヒー業界は極めて男性優位です。第一章「僕の周りのジェンダーギャップ」で書いたように、業界を構成する会社や団体のマネジメント層はほとんどが男性で、業界の意思決定は男性に支配されているのが現状です。加えて、店頭でのお客さんから女性のスタッフへのハラスメント被害が深刻であることも第一章に書いた通りです。しかし、それに対して業界として何ら取り組みが行われていないことは、業界の男性性やホモソーシャルがその大きな原因のひとつでしょう。
 僕がこのような問題意識を持っていたことから、雑誌『IWAKAN』Vol .6の「特集 男性制」(二〇二三年)で、コーヒーを通して男性性を考える機会をいただきました。記事の中では、ウェブメディアやポッドキャストでコーヒーに関する発信を続けるオトナリ珈琲代表のしば田ゆきさん、Xジェンダーであることを公表しコーヒー業界の性的マイノリティの認知向上などに取り組むMÖWE COFFEE ROASTERSの焙煎師で共同代表のまこさんと鼎談を行いました。惜しくも雑誌に収録しきれなかった部分を大幅に加筆することで、本節はより多角的にコーヒーと男性性を考える内容となりました。議論で得られた視座は、コーヒー業界とは縁遠い人にとってもきっと意味のあるものになるはずです。なぜならここで語られていることは、コーヒー(業界)に限った話ではなく、現代の日本社会が抱える本質的な課題だからです。

[1]たとえば「タリーズコーヒー」の木村文乃(二〇二〇年)や新木優子(二〇二四年)、「キリン ファイア」の石田ゆりこ(二〇一七年)など。
[2]たとえば「ジョージア ジャパン クラフトマン」の広瀬アリス(二〇二二年)。
[3]たとえば「ブレンディ」の榮倉奈々(二〇二五年)、「明治おいしいミルクコーヒー」の上戸彩(二〇二四年)、「ネスカフェエクセラ ふわラテ」の松浦亜弥(二〇二二年)。など。


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